小説 新型EDFC
第七話 【メディア試乗会】
11月14日水曜日、まだ日も昇りきらない早朝6時。
杉山、三原、中野の3人は、凍てつく寒さの中、山中湖にいた。
「さあ、いよいよだな。」
二人にそう言った杉山の顔がこわばっていたのは、凍てつく寒さのせいではなかった。
そう。今日から二日間、3人を中心として必死で作り上げてきた新製品「EDFC ACTIVE」の、
メディア試乗会が開催されるからだった。
今日のこのメディア試乗会に向け、社内では幾度となくテスト走行を繰り返し、
最後の煮詰めを万全に行ってきた。
それゆえ3人には自信があるのだが、いかんせん今まで誰も体験したことのないパーツ。
それだけに、メディアの方々にどういった評価を下されるのか、不安もあった。
「おい中野、お前なんて顔してんだ!」
「しっかり自信を持て。お前の作り上げたこのEDFC ACTIVEは、間違い無く面白い!」
「絶対にメディアの方々もそれをわかってくれる。」
三原はそう言いながら、不安を隠しきれない中野の背中をバンバンと叩いた。
「おっ!早速お客様のお着きだ!」
「さあ、いよいよ始まるぞ!」
そう言って3人はプレゼン会場へと走って行った。
いつのまにかプレゼン会場の席はメディアの方々で埋め尽くされていた。
未だ体験したことのない新製品の詳細はどんなものなのか。
メディアの方々も皆一様に興味津々といった表情だ。
そして定刻。いよいよメディアへの発表が始まった。
3人が徹夜を繰り返して作り上げた今日のプレゼン資料を、
杉山、中野が思いを込めて発表していく。
メディアの方々もプレゼンを聞いてずっとペンを走らせている。
そしてついに、EDFC ACTIVEを装着したデモカーへの試乗が始まった。
今回用意した車種は、86、BRZ、スイフトスポーツ、プリウス、ヴェルファイア、ワゴンRと、
スポーツカーからミニバン、セダン、軽自動車と、全てのカテゴリーのデモカーを用意し、
どのタイプの車でもEDFC ACTIVEを体感できるようにした。
それぞれの車にメディアの方々も分乗し、試乗へと出て行った。
「戻ってきて、どんなコメントが出るかな・・・」
「そういえば試乗を担当するドライバーの中に、SuperGTの選手もいたな・・・」
杉山は、そう言いながらソワソワと落ち着かない様子だった。
しばらくして、試乗を終えた車が続々と戻ってきた。
テインのスタッフは手分けして、試乗の感想を聞きに走った。
すると・・・。
「コレ、面白い!」
試乗を終えて車を降りたドライバーが開口一番そうコメントした。
その声は杉山、三原、中野の3人にも届いた。
「よっしゃー!!!!!」
3人は思わず声を上げてガッツポーズしてしまった・・・!
そのドライバーの方は続ける。
「Gと車速の制御はすごくよく体感できるよ!」
「ちゃんとブレーキングで減衰力が上がるから、常に車が安定するんだ!」
さらに別の方は、
「急激に減衰力が変化するのではなく、常に車両の状態により最適の減衰力を発生するよう、
すごくナチュラルに制御されているんだ。」
「これは街中でもすごく楽しいけど、是非サーキットで試してみたいね!」
そしてメディアの編集部の方も、
「久しぶりに使うのがワクワクするパーツに出会った!」
「コレならお金出して欲しいなと思っちゃったよ!」
と、次々に聞かれるコメントに、杉山、三原、中野の3人はとにかく安堵した。
「ああ、よかった・・・!やっぱり間違ってなかったんだ!」
そう中野が漏らすと、
「だからオレが言ったじゃないか!絶対に面白いから安心しろと!」
そう三原が得意気に言った。
「ふぅ、まず第一段階はクリアだな!」
「でも、まだまだこれからだ。次は、オートサロンが待ってる!」
そう杉山が言うと、3人の自信に満ちた顔は、もう次を見ていた。