小説 新型EDFC

第五話 【甘えと妥協】

コントローラの試作(ダンボール)

「肝心のコントローラかぁ…。」

杉山はそうつぶやくとイスの背もたれによりかかり、天井をジっと見つめたまま動かなくなった。 悩みの原因は、企画を始める時に営業の三原からまっさきに言われた、「頼むからシンプルでカッコイイのを作ってくれよな!」という言葉だった。
杉山はその注文に応えるべく、様々な電子部品を買い漁っては、自分のデスクの上に並べた。 それを見た同僚からは、ちょっとした量販店の展示コーナーみたいだと言われた。

「操作パネルと、コントローラ本体。それにGセンサーか…。」
次期EDFCの機能上、現行品よりもコントローラ群が多くなるのは仕方ないと杉山は考えていた。 まだまだモックアップなんて製作する段階じゃないので、杉山は自分でダンボールを切っては、イメージするコントローラ群を作ってみた。 それらをまた机の上に並べてみては、車のどこに装着するかを想像した。

「う~ん…。操作パネルがこんな感じで、見えないところに設置するコントローラがこんな感じ。」
「で、そのコントローラの近くにGセンサーを置くようにして…。」
「よし!こんなもんだろう!」
杉山は自画自賛の工作をデスクの上に並べて、その日は久しぶりに早く帰宅することにした。

翌朝出社してみると、昨日作ったダンボールのコントローラに何やら貼り紙が。
貼り紙には、「まさかお前、コレ本気じゃないだろうな?勘弁してくれよ!三原」と書かれていた。
どうやら昨夜帰社した三原が杉山のデスクの上を見たらしく、三原はたまらず文句をしたためたのだった。

三原はすでに営業に出ているため、携帯に電話してみた。 電話に出た三原は開口一番、「お前何考えてるんだよ!」とまくしたててきた。
「なぁ、せっかくモーターをワイヤレス化して配線を減らして手間も減らすんだろ?」
「それなのに何で操作パネルだ、コントローラだ、Gセンサーだで、3つにするんだよ!」
「それじゃ結局装着するのがめんどくさいじゃないかよ!」

三原は三原で、以前に馴染みのショップの店長から言われた言葉がずっと胸にあった。
「三原君さ、このEDFCって付ければ便利だけど、付けるのに配線がめんどくさいよな~。」
「この配線作業が無くなれば、工賃だってもう少し安くしてあげられるのに…。」

営業の三原にとっては、装着する店舗のスタッフも大事なお客様。そのお客様の要望を無視するわけにはいかなかった。 だからこそ、杉山の安易な考えに腹が立ったのだ。

「ごめん、そうだった。すっかり忘れてたよ…。」
受話器越しに5分ほど三原から一方的に説教された杉山には、用意していた反撃の言葉を口にする気すらなくなっていた。

電話を切った杉山は、早速開発を担当する中野に注文を付けた。
「中野、頼む!操作パネル、コントローラ、Gセンサーは、全部オールインワンにしてくれ!」
「しかも、それでいて驚くほどコンパクトにだ!」
「はぁ?本気で言ってるのか?」
「お前の要望を聞くと、驚くほどコンパクトというサイズは、結果現行品よりデカくなるぞ!」
「無理言ってるのはわかってる。わかってるけど、何とかしたいんだ。」
「買ったお客様や店舗のスタッフに、えっ?運転席に付けるのはこんな小さいの1個だけ?」
「そう言わせたいんだ!」
杉山は「無理!」を連発する中野を何とか説得したのと引き換えに、最近会社で話題の高級焼肉店でメシをおごるハメになった。

第六話 【完成目前】へ続きます…

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