小説 新型EDFC
第四話 【ニーズに応える】
「杉山、悪いけどこれじゃ売れないよ…」
杉山と中野が満を持して用意した試作品に、営業の三原は容赦なくそう言った。
「なんで?何が気に入らない?」
杉山は思わず声を荒げた。
「EDFCは10年も売ってるロングセラー商品なんだ。」
「そのニューモデルが発売されると聞いたら、期待だってするだろう。」
「でも残念ながらこの自動調整の今のレスポンスでは、悪いけど期待外れだ。」
「もっと瞬時に反応させてくれ。」
自信があっただけに、杉山も中野も思わず沈黙した。しばらくして中野が重い口を開いた。
「わかった。できないこともない。」
中野は続けた。
「でも、コストは上がるぞ…。」
「それはダメだ!」
今度は杉山がすかさず口を挟む。
「今の時代、いいものを作るだけじゃ売れない。面白さは、値段ともマッチしないと…。」
開発棟の前に停めた車の中で、3人は考え込んでしまった。
すると車のドアがガチャっと開き、突然杉山の上司が乗り込んで来た。
「ちょっと走ってみろ。」
運転席にいた三原は、すぐに車を発進させた。
「三原、これ売れるか?」
「いえ、正直ちょっと厳しいかと…。今その話を3人でしてました。」
「中野、このレスポンスの鈍さはどうにかならないのか?」
「はい、改善はできますが、その分コストが…。」
「で、杉山、お前はコストアップを容認するの?」
「……」
杉山は中野の苦労を知っているだけに、即答できなかった。
「杉山、現行品のEDFCはいくらだ?」
「39,500円です。」
「色々な機能が付くとは言え、現行品より2万も3万も高いEDFC、お前は欲しいか?」
「…いえ。」
「5万だ。レスポンスを改善して、定価5万は切れ。いいな杉山、中野。これは絶対だ。」
杉山と中野はその言葉に衝撃を受けたが、同時に覚悟を決めてハラをくくるキッカケにもなった。
「わかりました。必ず達成します。」
杉山と中野の戦いは大詰めを迎えていくのであった。