小説 新型EDFC

第三話 【ダンパーも変えないと…】

試作機の運転

「とにかくいいから、一度試作品に乗ってくれ」

内線の受話器の向こうから聞こえる開発担当の中野の声は、半ばヤケになっていた。 乗ってくれというのは、車速とGセンサーに連動した減衰力の自動調整機能の試作品第一号だった。
あわてて杉山が開発棟に行くと、すでに車はいつでも出発できるようになっていた。
「どうしたんだ?中野。試作、上手くいかないのか?」

「いいからまずは乗ってみてからだ。」
中野にせきたてられるように、杉山は車を走らせた。 するとすぐに、車速やGに連動してEDFCのモーターが作動しているのがわかった。と同時に、中野の声が晴れない原因もすぐにわかった。
「これじゃ全然ダメだ…」
思わず杉山はつぶやいた。恐らく中野の胸中も同じだったのだろう。

車速とGに連動してモーターの作動音が聞こえるのだが、その減衰力変化はほとんど感じとれなかった。 さらにモーターが動くまでの反応もワンテンポ遅く、思い描いていたものとは天竺ほど遠かった。

試乗を中止して開発棟に戻ってきた中野の中に、ある覚悟があった。
「これは、ダンパーもやらなきゃダメだ」
そう、減衰力の変化を感じとるには、もっと体感できるほどの減衰力変化幅が必要なのは明らかだった。

中野はダンパー開発チームの上司に直訴に行った。
「次期EDFCを活かすには、ダンパーも変える必要があります。」
「おいおい、冗談も休み休み言え。」
「冗談ではありません。そうしないと、面白くないんです。」
中野は、杉山が言うEDFCは面白くなくちゃいけないという思いをちゃんと理解していた。

「あのなぁ中野、ダンパーは面白いか、面白くないかじゃないんだよ。」
「用途にあった必要な減衰力を発生させるのが最も重要なことくらい、お前もわかるだろう。」
「はい、わかってます。それでも、どうしても面白くなくちゃダメなんです…」
「ならお前は、いったいどうすれば面白くなるというんだ?」
「不必要な減衰力が必要なんです!今までの1.5倍、いや2倍の減衰力変化幅を持たせて下さい!」

上司はしばらく中野の顔を見つめた後、何も言わずに受話器をとって誰かに内線をかけた。
「今お前がやってるストリートアドバンスの減衰力調整幅、今から2倍にできるか?」
受話器から悲鳴にも近い声が漏れ聞こえてくるのが中野にもわかった。

そして上司は静かに言った。
「でもな、それじゃ新しいEDFCが面白くないんだよ。とにかく今から2倍にしてくれ。」
受話器からはまだ悲鳴に近い声が漏れ聞こえていたが、上司は静かに受話器を置いた。
「これでいいんだろ?ただ、これだけ無茶するんだ。絶対に面白いものを作れよ。」
中野は申し訳なさとありがたさで、額がひざに付く勢いでお辞儀をして礼を言った。
「ありがとうございます!!!」

第四話 【ニーズに応える】へ続きます…

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